コストを押さえつつ、大空間を実現
【間仕切りを少なくし、伝統的な田の字プランに】
井之頭公園の緑の小道を通り抜けると、丸窓と朱色の壁が印象的なS邸が目にとまるでしょう。なんとこの家には、玄関がありません。ドアを開けるなり、ロフトまで続く直径30cmの太い大黒柱を思わず見上げてしまいます。間仕切壁を限りなく少なくし、経済的にも負担をかけない、伝統的な田の字型プランの家です。土地は27坪、建ぺい率40%、容積率80%と厳しい高さ制限の中で、いかにオープンで楽しい空間にするか、苦心しました。
居間の西側は、天井まで届く本棚で、その一部が風抜きの窓に。木の階段も、居間を彩る構造物として白壁に映えています。床は地面から60cm上にあり、人が楽々と出入りOK。部屋が広々と使えるよう建具を最小限にしたため、1階の洗面入口や2階のクロークルームにはあえて建具は置きませんでした。2階の階高は低いのですが、屋根の容積をいっぱいに取り入れ、斜め天井にすることで、解放感ある空間に。ベランダは、1階居間の南北に向かって4mの幅をとって張り出しました。
【建て主自身が、建物全体の壁を漆喰で塗り上げる】
コストを押さえつつ、S様ご夫婦の思い描かれる家を、どう実現させていくかが課題となりました。建物全体の壁をご自身で塗られると強くご希望されたのもその一つ。壁一面をお客様に塗っていただくことは多々ありますが、建物全体は当社も経験がありませんでした。塗り壁の良し悪しは養生(建材や塗装するところが汚れないようにすること)で決まるといいますが、その作業をお手伝い。脚立の上に乗ったり、慣れない高い所での難しい作業なども、職人たちのアドバイスやサポートを受けられ、なんとかやり遂げられました。大変ご苦労されたようですが、その分思い出に残り、愛着ある家になったのではないでしょうか。
1階の天井もコスト削減のためにはらず、2階床がそのまま1階の天井裏に。ただ、通常は、配線関連を考えて、下階に天井をつくり、上階の床との間にスペースを設けることをお勧めしています。
【浴室・洗面所は、職人の手でスペインタイルを貼る】
大工も大いに腕を振るいました。浴室はユニットバスではなく、現場施工の手づくりです。浴室や洗面所のタイルは、モルタルの上に直接接着剤で貼るのが一般的。ここでは「ダンゴ貼り」といい2~3cmの団子状の塊にしたモルタルを、スペインのタイル一枚一枚貼り付けました。おかけで、どこかエキゾチックで美しい水回りとなりました。このような仕事ができる職人を探すのは、もう難しいかもしれません。
この家はもちろん、当社では、徹底して環境に負荷のかからない自然素材の家づくりにこだわってきました。森林を破壊しない、健康に気遣うとなれば、合板、塩化ビニールなどは使えません。工業化し、画一化した住宅産業では、そんな家づくりはできないでしょう。自然素材を巧みに組み上げるには、熟練の職人の手による伝統工法が最適なのです。もし、遠い将来、私たちの家が廃棄処分となっても、環境を汚さず、自然の循環に帰っていく家づくりを目指しています。
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