16. NS様邸
杉並、秋田杉の家
八角形の居間が家族を大らかに包む
「じめじめした家」が「光と風の家」に大変身
直径30cmの桧の大黒柱が中心軸になって、ぐるりと囲むのは、なんと八角形のK邸居間。栗板のフローリング、小上がりの3畳の掘り炬燵スペース、キッチンを大空間が包みます。見上げると、大黒柱が、手斧で穿った赤松の水平梁と、コーナーから伸びた登り梁をしっかり受け止めています。まさに河合工務店の蓄積した大工技術の結集。合板だらけの2×4(ツーバイフォー)や、機械で仕口をカットするプレカット工法が99%となった家づくりの中では、もう稀有な技だと自負しています。
この真新しいK邸は、JR高円寺駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅街に建つ平屋です。K様のご実家であったRC造2階建てを建て替えたもの。敷地は南北に長い110坪。奥様の悩みの種であった「風通し悪く、コンクリートの壁がじめじめする古い家」は、劇的に、風と光が気持ちいい木の家となりました。
三大美林「秋田杉」を盛り上げるプロジェクトとして
大黒柱は、K様ご夫婦が、河合工務店が所有する栃木県の黒羽の山の大木を、自ら切り出されたものです。それ以外の構造材には、秋田杉を多用しました。これは、秋田上小阿仁村(マタギの村)の村長との出会いがきっかけです。
ある時、村長が当社を訪問されて、こう誘われます。「日本の三大美林の一つである秋田杉も需要が激減。このままだと、中国に買い取られてしまう。ぜひ、秋田に来て、秋田杉の素晴らしさを見てください」と。そこでツアーを組み、建築関係者40人ほどで村にうかがうと、村は私たちをあたたかく迎えてくれました。役場で村の現状についてミーティングを受け、山を見学。村長の計らいで、内陸線の電車を止め、美しい山村のパノラマを披露してくれたことも、良い思い出となりました。続く宴会、交流会を通し、林業経営者の話を聞くにつれ、「ぜひ、秋田杉を一軒分使った家をつくりたい」と、河合工務店・孝社長(現会長)が決心。K様ご夫婦に提案すると快諾されたので、この「秋田杉の家」が実現しました。
採光、通風、プライバシー確保の難題を解決
東西とも住宅が密集していたので、設計では、採光、通風、プライバシーの空間をいかに確保するかが大きなテーマとなりました。敷地が広いので平屋のプランにしたのですが、なかなかの難問です。
採光では、地盤面から80cmのところに1階床面を上げることで、陽がよく当たるように。通風では、東西、南北、十字型に風が通るように間取り。そのため、居間・畳コーナー、寝室、キッチン、2階小屋裏のどこにいても、自然の涼風がそよぎ、吹き抜けるようになりました。プライバシーの確保では、和室の北と東に、地窓を鍵型に配置。また、東側にベランダを設けることでプライバシーを確保しつつ、寝室とふれあいの場に採光と通風をもたらしました。
ご主人は、畳スペースの掘りごたつで、一杯飲んでころんと寝るのがお気に入り。竣工後間もなく、お子さんがお生まれになり、13畳の小屋裏がやがて子ども部屋となる予定とのこと。家は、生き生きと過ごす家族を見守っています。